訪問看護の現場で、私が最も多く耳にする言葉のひとつがあります。
それは「ありがとう」です。
処置やケアが完璧でなくても、ほんの些細なことでも「ありがとう」と言ってもらえる。
この言葉が、私自身を何度も励まし、看護師としての歩みを支えてくれました。
今日は、訪問看護で出会った「ありがとう」から学んだことをお話しします。
訪問先で出会った「ありがとう」の言葉
あるご利用者ご家族の話です。
Aさんというご高齢の女性と、その息子Bさんのお二人で暮らしていました。
Aさんは認知症の診断があり、短期記憶障害でお薬の飲み忘れがあるとのことで、看護師介入が開始となりました。
同居しているBさんはお仕事が忙しく、月曜日から土曜日までお仕事でした。
はじめはお薬の管理と体調の確認程度で短時間の介入でしたが、お話し好きなAさんのお人柄もあり私たちも次第にAさんのお家に行くことが楽しくなりました。
Bさんとのコミュニケーションはノートでバイタルや介入内容をお伝えする程度でしたが、私はAさんとお話しした内容やおもしろエピソードを多く書くようにしていました。
ある日ノートにBさんからこんなメッセージが書かれていました。
「看護師さん、いつも母のお話を聞いてくださりありがとうございます。母も看護師さんたちが来るのをいつも楽しみにしています。私が仕事で家を空けることが多く、母のことが心配でしたが、皆さんが来てくださるおかげで母の笑顔が増えました。」
短い文でしたが、私たちの存在がAさんBさんのご家族の支えになっていると肯定されたと思えた瞬間でした。
このように、「ありがとう」の言葉は私たち看護師のモチベーションに繋がることを改めて感じました。
感謝の言葉が持つ力
「ありがとう」という言葉には、人の行動を変える力もあります。
例えば公共施設で「トイレをきれいに使ってくれてありがとう」という張り紙を見ると、本当にきれいに使う人が増える、という有名な話があります。
感謝を先に伝えると「期待に応えたい」という気持ちが芽生えるのです。
訪問看護の現場でも、似たような場面があります。
Cさんは精神疾患をお持ちの方でとても大きなストレスを抱え、自傷行為を繰り返していた方がいました。ご家族から自傷を責められそのうち自傷したことを隠すようになりました。訪問して体調について質問しても「別に」「大丈夫です」と淡々と返事をされることが多くなってきました。
ある日この方の家の周りにある花について何気なくお話しをしました。すると、季節ごとに咲く花をたくさんお話ししてくださったのです。
以降私は体調についてではなく、家の外についての話を中心に会話をすることを意識しました。
そして最後に必ず「今日もたくさんお話ししてくれてありがとうございます」とお伝えしました。
ある日私がオンコール当番の夜、Cさんから電話がかかってきました。
「よかった、ぴぽんさんだった。どうしようもなく消えたくて、またたくさん薬飲んでしまいそうなんです」と。
その時は「消えたいという気持ちをお話ししてくれて、また行動の前にお電話くれてありがとうございました」とお伝えして、その後Cさんのお話しをじっくり聴きました。
その電話があってから初めての訪問でも同様に「気持ちをお話ししてくれてありがとうございます」という言葉をお伝えしました。
その後から徐々に自傷行為は減り、気持ちの吐き出しができるようになったのです。
看護師にとっての「ありがとう」とは
看護師として「ありがとう」と言われる時、それは単なるお礼以上の意味を持つと思います。
・「あなたがいてくれて心強い」
・「一人じゃないと思える」
・「支えてもらって安心できる」
そんな思いが込められているからです。
どんなに疲れていても「ありがとう」の一言で心が満たされ、「また頑張ろう」と思える。
感謝の言葉は、看護師にとって最高のエネルギー源なのです。
また、それと同時に「ありがとう」に対する対価をこちらも払わねばならないと思っています。
「人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。何かを得るためには同等の対価が必要になる。」
これは看護における等価交換の原則ではないでしょうか。
きっとエドワード・エルリックも頷いていると思います。
日常でできる「ありがとうの連鎖」
「ありがとう」は、医療の現場だけのものではありません。
日常生活の中でも、誰もが広げられる「安心の連鎖」です。
・家族に「今日もお疲れ様」と伝える
・子供に「今日も学校(保育園や幼稚園)がんばってきたね。ありがとう」と声をかける
・店員さんや宅配員さんに「ありがとうございます」と笑顔で言う
こうした小さな感謝の積み重ねが人を励まし、自分自身の心も満たしていきます。
訪問看護で学んだことは、感謝の言葉は相手に届けると同時に、自分にも返ってくるということです。
まとめ___感謝を通じて広がる安心
訪問看護野現場で、私は何度も「ありがとう」という言葉に救われてきました。
感謝は医療の力を超えて、人の心に安心をもたらします。
安心とありがとう。
この2つの言葉は、看護の現場だけでなく、日常生活でも大切にしたい普遍的な力です。
今日、あなたも誰かに具体的な「ありがとう」を伝えてみませんか?
その一言が、新しい安心と笑顔を生むきっかけになるかもしれません。
この記事を書いている私は、訪問看護師として児童虐待防止にも関わっています。
その想いはこちらで詳しく書いています。


コメント